JR東海事件(大阪地裁平成11年10月4日判決)の概要を以下に述べます。
事件の背景
- 原告Xの経歴
- 昭和41年4月10日:国鉄に準職員として採用されます。
- 昭和41年10月1日:職員となり、天王寺鉄道管理局奈良運転所に配属されます。
- 昭和60年3月18日:新幹線エンジニアリング株式会社に派遣されます。
- 昭和62年4月1日:国鉄の民営化に伴い、被告Y会社(JR東海)の職員となります。
- 原告Xの業務内容
- Xは、車両の整備業務等に従事していました。
- 採用時に職種や業務内容の限定はありませんでした。
事件の経緯
- 病気の発症と欠勤
- 平成6年6月15日:Xは脳内出血で倒れ、私傷病欠勤となります。
- 休職命令
- 平成6年12月13日:欠勤日数が180日を超えたため、Y会社はXに対して6か月の病気休職を命じます。
- この休職命令は、Y会社の就業規則に基づくものでした。
- 休職期間の更新
- Xから診断書が提出されるたびに、休職期間が更新されました。
- 最終的に、休職期間は平成9年12月12日までとされました。
- 復職の意思表示
- 平成9年8月6日:Xは職場で所長らと面会し、復職の意思を表明します。
- 平成9年10月21日:Xから提出された診断書には、軽作業なら行えること、安静度について特別な規制はないこと等が記載されていました。
- 退職扱い
- 平成9年11月27日:Y会社は、判定委員会の判定結果を踏まえ、Xがなお復職できないと判断します。
- 平成9年12月13日:Y会社は、休職期間が3年を超えたことを理由に、Xを退職扱いとしました。
訴訟の提起
Xは、Y会社による退職扱いは違法であるとして、以下の請求を行いました。
- 従業員としての地位確認
- 未払い賃金の支払い
争点
本件の主な争点は以下の通りです。
- Y会社による退職扱いの有効性
- 復職可能性の判断基準
- 使用者の配置転換義務の範囲
判決の要旨
大阪地方裁判所は、以下のように判示し、Xの請求を認容しました。
- 復職可否の判断基準
- 労働者が私傷病により休職となった後に復職の意思を表示した場合、使用者はその復職の可否を判断することになる。
- 労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合、休職前の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討し、これがある場合には、当該労働者に右配置可能な業務を指示すべきである。
- 配置可能な業務の検討義務
- 使用者は、労働者の能力、経験、地位、使用者の規模や業種、その社員の配置や異動の実情、難易等を考慮して、配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討する必要がある。
- 本件におけるXの身体状態
- 平成9年12月当時のXの身体状態は、多少のふらつきがあるものの杖なしに独立歩行が可能であり、握力も健常人と大差なく、右手指の動きが悪いため細かい作業が困難である程度であった。
- 構語障害については、会話の相手方が十分認識できる程度であった。
- 複視はあるものの、その程度は軽く、たまには焦点が合うこともあった。
- Y会社の対応の問題点
- Y会社は、Xの身体状態や主治医の診断を十分に考慮せず、復職不可能と判断した。
- 少なくとも工具室における業務についてXを配置することは可能であったと考えられる。
- 判決の結論
- Y会社による退職扱いは就業規則に反し、無効である。
- Xの従業員としての地位を確認し、未払い賃金の支払いを命じる。
本判決の意義
- 復職可能性の判断基準の明確化
- 本判決は、労働者が職種や業務内容を限定せずに雇用契約を締結している場合、使用者は配置替え等により現実に配置可能な業務の有無を検討する義務があることを明確にしました。
- 使用者の配慮義務の範囲の拡大
- 従来の判例では、「従前の職務を通常の程度に行える健康体に復したとき」を復職の要件としていましたが、本判決はより柔軟な判断基準を示しました。
- メンタルヘルス不調者への対応への示唆
- 本判決は、身体的な障害のケースですが、メンタルヘルス不調を理由とする休職からの復職判断にも影響を与える可能性があります。
- 企業の人事管理への影響
- 企業は、休職者の復職可能性を判断する際に、より広範な配置可能性を検討する必要があることが示されました。
本判決は、労働者の雇用保護と企業の人事管理の在り方に大きな影響を与える重要な判例となりました。企業は、休職者の復職判断において、より慎重かつ柔軟な対応が求められることとなりました。