トーコロ事件の解説(過半数代表者とは)

トーコロ事件の概要を以下に述べます。

事件の背景

この事件は、残業命令の拒否を理由とする解雇の有効性が争われた労働訴訟です。主な争点は、36協定の有効性と残業命令の適法性でした。

当事者

  • X:Y会社の従業員(原告・被控訴人・被上告人)
  • Y:会社(被告・控訴人・上告人)

事実関係

  1. Xの業務内容
    Xは、Y会社で電算写植機のオペレーターとして勤務し、住所録作成(組版)の業務に従事していました。
  2. 残業の状況
    平成3年9月末頃、組版業務の部署で午後7時まで残業する申し合わせがなされ、Xも同年10月初旬頃から、毎日30分ないし1時間45分程度残業するようになりました。
  3. 残業命令と拒否
    Y会社は繁忙期に入り、上司がXに何度か残業時間を延長するよう求めましたが、Xがこれに従わないとみると、同月31日に営業部長が残業命令を発しました。
  4. Xの健康状態
    Xは、同年2月4日、眼精疲労であるとする医師の診断書を提出しました。その後、Xは定時の午後5時半になると帰宅していました。
  5. 解雇の経緯
    Y会社の社長は、Xに対し自己都合退職するよう勧告し、Xがこれを拒否すると、解雇を通告しました。
  6. 訴訟の提起
    Xは、この解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めて訴えを提起しました。

36協定の締結状況

  1. 協定の締結日と届出
    本件の36協定は、平成3年4月6日に所轄の労働基準監督署に届け出られていました。
  2. 協定の当事者
    協定の当事者は、Y会社と「労働者の過半数を代表する者」としての「営業部A」でした。
  3. 代表者の選出方法
    協定の当事者の選出方法については、「全員の話し合いによる選出」とされていました。
  4. 「友の会」について
    Aは「友の会」の代表者でした。「友の会」は役員を含めたY会社の全従業員によって構成されており、会員相互の親睦等を図り、融和団結の実をあげることを目的とする親睦団体でした。

裁判の経過

  1. 第一審
    Xの請求をほぼ認容しました(ただし、慰謝料請求は認められませんでした)。
  2. 控訴審
    Y会社の控訴を棄却しました。
  3. 上告審
    最高裁は、本判決の判断は正当として是認できるとして、上告を棄却しました(最2小判平成13年6月22日)。

判決の要旨

  1. 36協定の有効性
    裁判所は、「労働者の過半数を代表する者」は当該事業場の労働者により適法に選出されなければならないとしました。適法な選出といえるためには、以下の条件が必要であるとしています。 a. 当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して36協定を締結することの適否を判断する機会が与えられていること。 b. 当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていること。
  2. 「友の会」代表者の位置づけ
    裁判所は、「友の会」は労働組合ではなく、親睦団体であるとしました。したがって、Aが「友の会」の代表者として自動的に本件36協定を締結したにすぎないときには、Aは労働組合の代表者でもなく、「労働者の過半数を代表する者」でもないため、本件36協定は無効であるとしました。
  3. 36協定締結の手続きについて
    本件36協定の締結に際して、労働者にその事実を知らせ、締結の適否を判断させる趣旨のための社内報が配付されたり集会が開催されたりした形跡はなく、Aが「労働者の過半数を代表する者」として民主的に選出されたことを認めるに足りる証拠はないと判断しました。
  4. 残業命令の有効性
    36協定が無効であるため、それを前提とする本件残業命令も有効であるとは認められないとしました。
  5. 解雇の有効性
    Xには本件残業命令に従う義務がなかったため、残業命令違反を理由とする解雇は無効であるとしました。

判決の意義

  1. 過半数代表者の選出方法
    この判決は、36協定締結における過半数代表者の選出方法について重要な指針を示しました。単に親睦団体の代表者を自動的に労働者の代表とすることは適切ではなく、民主的な手続きによる選出が必要であることを明確にしました。
  2. 36協定の有効性と残業命令の関係
    36協定が無効である場合、それに基づく残業命令も無効となることを示しました。これにより、企業は36協定の締結手続きを適切に行う必要性を再認識することとなりました。
  3. 労働者の権利保護
    この判決は、不適切な手続きによる36協定の締結や、それに基づく残業命令から労働者を保護する役割を果たしました。
  4. 企業の労務管理への影響
    企業は36協定の締結手続きを見直し、適切な過半数代表者の選出方法を確立する必要性に迫られることとなりました。

本判決後の法改正

本判決を受けて、2019年に労働基準法施行規則が改正され、過半数代表者の選出方法について以下の要件が明文化されました。

  1. 管理監督者(労働基準法41条2号)の地位にないこと。
  2. 労働基準法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと。

これにより、過半数代表者の選出方法についての法的要件がより明確になりました。

企業への示唆

  1. 36協定締結の重要性
    残業を命じるためには、有効な36協定の締結が不可欠です。
  2. 過半数代表者の適切な選出
    過半数代表者は、民主的な手続きにより選出される必要があります。単に既存の団体の代表者を充てるのではなく、36協定締結のための代表者であることを明示した上で選出しなければなりません。
  3. 選出過程の記録
    過半数代表者の選出過程を記録し、適切な手続きを経たことを証明できるようにしておくことが重要です。
  4. 従業員への周知
    36協定の内容や過半数代表者の選出過程について、従業員に十分な周知を行うことが求められます。
  5. 残業命令の適法性確認
    残業命令を出す際は、36協定の内容に沿ったものであるか、また協定自体が有効であるかを確認する必要があります。
  6. 健康管理への配慮
    従業員の健康状態に配慮し、正当な理由がある場合には残業を免除するなど、柔軟な対応が求められます。

本事件は、36協定の締結手続きの重要性と、それに基づく残業命令の適法性について重要な判断を示しました。企業は、この判決を踏まえ、適切な労務管理を行うことが求められます。

Posted by shimizu-sr

東京都出身。 学生時代から1ジャンルに特化したウェブサイトの構築を開始し、インフルエンサーとして現在もなお趣味界をリード、多大な影響を与える。 大学卒業後、大手鉄道会社に入社。日本の大動脈輸送システムのオペーレーションや労務管理を学ぶ。 その後在京大手テレビ局に転じニュース番組のディレクター等を勤め、クリエイティブな才能を発揮させる。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、社労士登録。その後紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定社労士付記を行う。