今回は、労働基準法上の「労働者」に関する判例(横浜南労基署長(旭紙業)事件)について解説します。傭車運転手とは自ら所有するトラックを持ち込んで、依頼された業務にあたる運転手の事です。要するに本人は旭紙業に雇用されているわけではない、フリーランスなわけですね。
自己所有のトラックを用いて運送業務を行っていた運転手が、労働基準法および労災保険法上の「労働者」に該当するかどうかが争点となった重要な裁判です。一審では原告が勝訴しましたが、控訴審と最高裁では「労働者性」が否定されました。
この事件は一審が平成5年と古い事件ですが、令和2年の社労士試験選択式で出題されたもので、ウーバーイーツなどの雇用に寄らない多様な働き方を先取りしたような事件です。今後も択一式試験では問われる可能性があります。
なお裁判の被告は労基署、すなわち国であり、旭紙業は訴訟当事者ではありません。以下に詳しく解説します。
事件の概要
横浜南労基署長(旭紙業)事件は、労働基準法上の「労働者」の定義に関する重要な最高裁判決です。この事件では、自己所有のトラックを使用して運送業務に従事していた運転手(X)が、作業中の負傷に対して労災保険の適用を求めましたが、労働基準監督署長(Y)がXを労働者と認めず不支給処分としたことが争われました。
Xの就労実態は以下のようなものでした:
- A会社からの業務指示は主に運送物品、運送先、納入時刻に限られていた
- 勤務時間は一般従業員のように厳密に定められていなかった
- 報酬は出来高制で支払われていた
- トラックの購入費やガソリン代等の経費はX自身が負担していた
- 報酬に対する源泉徴収や社会保険料控除はなく、Xは事業所得として確定申告していた
最高裁は、以下の理由からXの労働者性を否定しました:
- Xは自己所有のトラックを使用し、自己の危険と計算で業務を行っていた
- A会社からの指示は運送業務に必要な最低限のものだった
- 時間的・場所的拘束は一般従業員と比べて緩やかだった
- 報酬の支払方法や公租公課の負担状況も労働者性を示すものではなかった
この判決は、労働者性の判断において使用従属関係の有無を重視し、業務の実態や事業者性を総合的に考慮する基準を示しました。特に、傭車運転手の労働者性を否定した初めての最高裁判決として重要な意義を持ちます。
本判決以降、労働者性の判断に関する裁判例では、この判決で示された基準が参照されることが多くなりました。しかし、近年の働き方の多様化に伴い、労働者性の判断はより複雑になっています。
実務への影響としては、企業が業務委託や請負契約を結ぶ際の指針となっていますが、個々の事例ごとに総合的な判断が必要です。
一方で、本判決に対しては、労働者性の判断基準が厳格すぎるという批判や、新しい働き方への対応、経済的従属性の考慮などの課題も指摘されています。
労働者性の判断は、労働法による保護の適用範囲を決定する重要な問題です。今後も社会経済の変化に応じて、適切な判断基準の在り方について議論が続けられることが予想されます。