阪急トラベルサポート事件の解説

事件の概要

本事件は、旅行添乗員の労働時間管理に関する重要な判例です。以下、事件の詳細を項目ごとに説明します。

当事者

  • 原告(X):派遣添乗員として働いていた労働者
  • 被告(Y):派遣元会社である阪急トラベルサポート
  • 訴外A社:派遣先の旅行会社(阪急交通社)

事案の経緯

Xは、Y社に登録型派遣添乗員として雇用され、A社が主催する海外ツアーの添乗業務に従事していました。Xの業務内容は以下の通りです。

  1. ツアー参加者と共に日本を出発
  2. 現地での交通機関・レストラン等の手配
  3. ツアー参加者の要望への対応

労働条件

Y社がA社に交付した派遣社員就業条件明示書には、以下の内容が記載されていました。

  • 労働時間:原則として午前8時から午後8時まで(休憩を除くと11時間)
  • 賃金:日当16,000円

しかし、実際のXの1日の労働時間は11時間を超えることもありました。

争点

本件の主な争点は、添乗員の業務が労働基準法38条の2第1項に定める「労働時間を算定し難いとき」に該当するか否かです。Y社は、派遣添乗員の業務は事業場外労働であり、「労働時間を算定し難いとき」に該当するとして、所定の日当のみを支払っていました。

Xの主張

Xは、未払いの時間外割増賃金等があるとして、Y社に対しその支払いを求めて提訴しました。

裁判の経過

  1. 第一審(東京地裁)
    本件添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」に該当するとしました。
  2. 控訴審(東京高裁)
    「労働時間を算定し難いとき」に該当しないとして、Xの割増賃金請求の多くを認めました。
  3. 上告審(最高裁)
    Y社が上告受理申立てを行いました。

最高裁の判断

最高裁は、以下の理由から、本件添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」に該当しないと判断しました。

  1. 業務内容の確定性
    • ツアーの旅行日程は、日時や目的地等が明確に定められている。
    • 添乗員の業務内容は、あらかじめ具体的に確定されている。
    • 添乗員が自ら決定できる事項の範囲及び選択の幅は限られている。
  2. 具体的な指示と報告体制
    • ツアー開始前に、A社は添乗員に対し具体的な業務内容を指示している。
    • ツアー実施中も、必要に応じてA社の指示を受けることが求められている。
    • ツアー終了後は、詳細な添乗日報の提出が求められている。
  3. 勤務状況の把握可能性
    • 上記の要素を考慮すると、添乗員の勤務状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難い。

判決の意義

本判決は、事業場外労働におけるみなし労働時間制の適用要件について、最高裁として初めて判断を示したものです。特に以下の点で重要な意義があります。

  1. 「労働時間を算定し難いとき」の判断基準
    • 業務の性質、内容、遂行の態様
    • 使用者と労働者間の指示・報告体制
  2. みなし労働時間制の適用範囲の明確化
    • 単に事業場外で労働しているというだけでは不十分
    • 使用者による労働時間の把握可能性が重要
  3. 添乗員の労働時間管理への影響
    • 旅行業界における労働時間管理の見直しが必要

本判決の影響

  1. 旅行業界への影響
    添乗員の労働時間管理方法の見直しが必要となります。実際の労働時間を把握し、適切な賃金支払いを行う体制の構築が求められます。
  2. 他の事業場外労働への波及
    営業職や在宅勤務など、他の事業場外労働についても、みなし労働時間制の適用可否を再検討する必要が生じる可能性があります。
  3. 労働時間管理の重要性の再認識
    使用者は、労働者の実際の労働時間を可能な限り正確に把握し、適切に管理することの重要性を再認識する契機となります。

今後の課題

  1. 実効性のある労働時間管理方法の確立
    添乗員の労働実態に即した、実効性のある労働時間管理方法を確立する必要があります。
  2. 労使間の協議
    労働時間の算定方法や賃金体系について、労使間で十分な協議を行い、合意形成を図ることが重要です。
  3. 法制度の見直し
    事業場外労働に関する法制度について、現代の多様な働き方に対応した見直しを検討する必要があるかもしれません。
  4. 他の職種への適用
    本判決の考え方を、他の事業場外労働を行う職種にどのように適用していくかについて、検討が必要です。

結論

本判決は、みなし労働時間制の適用要件について重要な判断基準を示しました。使用者は労働者の実際の労働時間を可能な限り正確に把握し、適切に管理することが求められます。一方で、事業場外で働く労働者の多様な働き方に対応した労働時間管理のあり方について、さらなる議論と検討が必要です。

Posted by shimizu-sr

東京都出身。 学生時代から1ジャンルに特化したウェブサイトの構築を開始し、インフルエンサーとして現在もなお趣味界をリード、多大な影響を与える。 大学卒業後、大手鉄道会社に入社。日本の大動脈輸送システムのオペーレーションや労務管理を学ぶ。 その後在京大手テレビ局に転じニュース番組のディレクター等を勤め、クリエイティブな才能を発揮させる。 在職中に社会保険労務士試験に合格し、社労士登録。その後紛争解決手続代理業務試験に合格し、特定社労士付記を行う。