JR西日本(広島支社)事件の概要を以下に述べます。
事件の背景
この事件は、JR西日本の従業員である運転士が、会社の変形労働時間制の運用に関して訴訟を起こしたものです。
変形労働時間制について
変形労働時間制とは、一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えない範囲で、特定の日や週の労働時間を法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて設定することができる制度です。この制度により、業務の繁閑に応じて労働時間を柔軟に設定することが可能となります。
事件の概要
会社の制度
- JR西日本は、1カ月単位の変形労働時間制を採用していました。
- 就業規則には、従業員の勤務について「毎月25日までに翌月分を指定する」こと、「ただし、業務上の必要がある場合は、指定した勤務を変更する」ことが定められていました。
問題となった事象
- 会社は、ある月の25日に翌月の勤務指定を行いました。
- その後、会社は勤務指定の変更を行いました。
- 変更後の労働時間を所定労働時間として扱い、賃金を支給しました。
従業員の主張
原告である従業員らは、以下のように主張しました。
- 勤務指定の変更を認める就業規則の定めは、法定労働時間を超えて働く週及び日の「特定」を要件とする労働基準法32条の2に反し、無効である。
- 変更前の労働時間を所定労働時間として、変更後の労働時間との差分について残業代を支払うべきである。
裁判所の判断
変形労働時間制における「特定」の要件
裁判所は、変形労働時間制における「特定」の要件について、以下のように判断しました。
- 労働者の労働時間を早期に明らかにする必要がある。
- 勤務の不均等配分が労働者の生活にいかなる影響を及ぼすかを明示する必要がある。
- 労働者が労働時間外における生活設計を立てられるように配慮することが必要不可欠である。
- 各日及び週における労働時間をできる限り具体的に特定することが必要である。
勤務変更に関する判断
裁判所は、公共性を有する事業を目的とする一定の事業場においては、以下の条件を満たす場合、勤務変更を可能とする規定を設けることは直ちに違法とはならないとしました。
- 勤務指定前に予見することが不可能なやむを得ない事由が発生した場合に限ること。
- 使用者の裁量に一定程度委ねられていること。
勤務変更条項の要件
ただし、裁判所は勤務変更条項について、以下の要件を満たす必要があるとしました。
- 勤務変更が勤務指定前に予見できなかった業務の必要上やむを得ない事由に基づく場合のみに限定して認められる例外的措置であることを明示すべきである。
- 労働者から見てどのような場合に勤務変更が行われるかを予測することが可能な程度に変更事由を具体的に定めることが必要である。
本件就業規則の評価
裁判所は、JR西日本の就業規則について以下のように判断しました。
- 会社が勤務指定を任意に変更し得るような抽象的な定めになっている。
- 労働基準法32条の2の「特定」の要件を充たしていない。
- 就業規則の当該条項は無効である。
結論
裁判所は、以下のように結論を下しました。
- 変更前の労働時間が所定労働時間となる。
- 原告らの請求を一部認容した。
事件の意義
この判決は、変形労働時間制における労働時間の「特定」の要件と、勤務変更条項の有効性について重要な判断を示しました。特に以下の点が重要です。
- 変形労働時間制における労働時間の「特定」の要件を明確化した。
- 公共性の高い事業における勤務変更の必要性を認めつつ、その条件を示した。
- 勤務変更条項の具体性と明確性の重要性を強調した。
企業への影響
この判決を受けて、変形労働時間制を採用する企業は以下の点に注意する必要があります。
- 労働時間の「特定」を適切に行うこと。
- 勤務変更条項を設ける場合は、変更事由を具体的かつ明確に定めること。
- 勤務変更は例外的な措置であることを明示すること。
- 労働者の生活利益に十分配慮すること。
まとめ
JR西日本(広島支社)事件は、変形労働時間制における労働時間の「特定」と勤務変更条項の有効性について重要な判断を示した事例です。この判決により、企業は変形労働時間制の運用に際して、より慎重かつ具体的な規定を設ける必要性が明確になりました。また、労働者の生活利益への配慮の重要性も再確認されました。今後、変形労働時間制を採用する企業は、この判決の趣旨を踏まえて、適切な制度設計と運用を行うことが求められます。